研究テーマ

我々の研究は以下の三つの軸で進んでいる.
1)精密な触媒設計により基質を認識する反応場を構築し,配向基をもたない単純アレーンの位置選択的直接官能基化反応を実現する.
2)合成化学の持続的発展のために,普遍金属触媒および反応剤(有機ナトリウム反応剤)を開発する.
3)開発した合成法を機能性分子や医薬品分子合成へ応用する.

最近の研究成果

配位子設計によるアレーンの位置選択的直接官能基化反応
Science  2022, 375, 658–663.   pdf    press release     research highlight
  置換アレーン類の位置選択的な官能基化を達成するために,水素結合,Lewis酸-塩基,イオン対相互作用等を利用して基質を認識する例が報告されている.しかしながら,この手法はアルキルベンゼンのように強い相互作用を期待できない基質には適用できなかった.我々は,2,2'-ビピリジンを3次元的に拡張した化合物に「屋根」を取り付けたスピロビピリジン配位子を設計し,イリジウム錯体と共に触媒として用いることで,さまざまなアレーン類のホウ素化反応がメタ位選択的に進行することを見出した.本触媒は,酵素の鍵と鍵穴モデルと同じように,パラ位置換基の接近を防ぎつつ,メタ位C–H結合を金属中心に接近させる配置でのみ基質を認識できる.アルキルベンゼン,アニリン,フェノール,アリールシラン,アリールホスホン酸エステル誘導体などの比較的単純な芳香族炭化水素のメタ位選択的ホウ素化だけでなく,カラミフェンのような複雑な医薬品分子のホウ素化も可能となった.
 
 
ACS Catal.  2021, 11, 5968–5973.   link
  フルオロアレーンは医薬品類に広く見られる部分骨格であるため,合成段階の終盤で簡便に官能基化する反応が注目を集めている.我々は触媒量のイリジウムと精密に設計したターピリジン配位子を用いると,フルオロベンゼン類がオルト位選択的にホウ素化されることを発見した.実験および理論計算による反応機構研究により,ターピリジンがロールオーバーC–Hメタル化を経てホウ素化され,ホウ素化されたターピリジン配位子と基質の間の相互作用がオルト選択性発現に寄与している可能性が示唆された.高オルト位選択的ホウ素化を利用し,ハロペリドールなどの医薬分子の迅速誘導化に取り組んでいる.
 
有機ナトリウム化合物の研究
Commun. Chem. 20214, 76.     link
Chem. Lett. 2021 , in press  link
Review:  Synthesis  202153, 3180 .  link
有機リチウム化合物は,その発見から1世紀以上にわたり有機化学において必要不可欠な存在であり続けているが,資源偏在や価格高騰のリスクを抱える.リチウム化合物をナトリウム化合物で代替し,ナトリウムを基盤とする有機合成システムを構築すべく研究に取組んでいる.長年リチウムの影に隠れていたナトリウム化学の発展を加速するにあたり鍵となるのは,金属ナトリウム分散体の利用である.我々の用いるナトリウム分散体 (約25 wt%) は鉱油中に分散された微粒子 (<10 μm) で,塊状ナトリウムよりも比表面積が大きく反応性が高いにも関わらず,この濃度において水との反応が穏やかなため,消防法でブチルリチウムや塊状ナトリウムよりも危険性の低い第4類第3石油類に分類される.実験室では空気中で安全にシリンジを用いて精密秤量できる利点を有する.最近,ハロゲン-ナトリウム交換による有機ナトリウム化合物の調製法を開発し,サステイナブルクロスカップリング反応へ応用できることを見出している.また,SD/DMI (1,3-dimethyl-2-imidazolidinone)を用いることで,アンモニアを用いず温和な条件でBirch還元反応を行えることを見出した.