研究テーマ

研究テーマ

我々の研究は以下の三つの軸で進んでいる.
1)精密な触媒設計により基質を認識する反応場を構築し,配向基を有しない単純アレーンの位置選択的直接官能基化反応を実現することを目的としている.
2)合成化学の持続的発展を目指し,普遍金属触媒および試薬(有機ナトリウム試薬)の開発に取り組んでいる.
3)開発した合成法は,機能性分子および医薬品分子合成への応用を目指している.

最近の研究成果

1. 鉄触媒を用いたSp3炭素ー水素結合の遠隔位修飾反応
ACS Catal. 2018, 8, 8.
For the dual reactivity of iron, see also:  J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 5568.Org. Lett. 2013, 15, 714.ACS Catal. 2017, 7, 3199.
 
修飾された脂肪族炭化水素類は自然に多く存在する化合物群であることから,合成化学者の重要な合成ターゲットである.単純炭化水素類の炭素水素結合を直接修飾する手法はこれらの化合物を合成する最も効率的な手法である.しかしながらこのような手法は,強固なsp3炭素ー水素結合を切断する際に位置選択性や化学選択性を制御することが難しいという問題がある.
我々は鉄触媒反応の開発研究を通じて,有機鉄種が二重の反応性を示すことを見出した.二重の反応性とは,同一触媒サイクル内に有機鉄種が一電子および二電子移動関与反応の両方の反応性を示すということである.そこでわれわれは鉄触媒のもつラジカル的反応性と極性反応性を活用することで,sp3炭素ー水素結合の選択的切断に引き続き,新たな結合の形成反応が温和な条件下で進行するのではないかと考えた.
 
dual反応性の概念
 
 
検討の結果,我々は最近アルキルアレーン類の選択的修飾反応を開発した.すなわち鉄塩と有機金属試薬から有機鉄が生成し,その有機鉄種からヨウ化アリールに対する一電子移動を経て有機鉄中間体を生じる.この有機鉄中間体はアリールラジカル様の反応性を有し,アルキル鎖γ位に結合する水素を1,5ー水素移動を経て引き抜いた後,有機鉄種との再結合および還元的脱離によって新たな炭素ー炭素結合を形成する反応である.とりわけ,古典的合成手法では選択的修飾が難しい活性化されていないアルキルアレーン類のγ位を完璧な選択性でアリール化できる点は特筆すべき点である.
 
鉄触媒を用いたsp3CH活性化反応

 
 
2. 鉄触媒を用いるエナンチオ選択的スルホキシ化によるエソメプラゾール (プロトンポンプ阻害剤)のキログラムスケール合成
ACS Catal. 2018, DOI: 10.1021/acscatal.8b02610.
イリエシュチームは,医薬品化学に重要な分子の高効率かつ環境に優しい工業的合成法の開発に興味をもっています. 東和薬品との共同研究の成果として,我々はプロトンポンプ阻害剤である エソメプラゾールのキログラムスケール合成を可能にする,鉄触媒によるエナンチオ選択的スルホキシ化反応を開発しました. 現製造法(AstraZeneca社)(1)は30 mol%のチタン触媒を必要とするのに対し,本反応は8 mol%の安価で低毒性な鉄塩,入手容易な化合物から系中調製される配位子,およびカルボン酸塩を用いると,キログラムスケールでも高収率かつ高エナンチオ選択性で円滑に進行します(Scheme).
  
鉄触媒を用いたエゾメプラゾル合成
 
 
特筆すべき特徴としては: 
1) 鉄触媒を用いるエナンチオ選択的スルホキシ化の先駆的な例はCarsten Bolm (University of Aachen)らにより報告されたが(2),小スケール反応において単純なスルフィド基質にしか適用できず,モダフィニルのような複雑な基質ではうまく反応が進行しない(3).2) 鉄触媒への関心が近年高まっているが,我々の知る限り,本反応が均一系鉄触媒によるエナンチオ選択的反応をキログラムスケール合成へ適用した最初の例である.3) 現時点で詳細は不明であるが,遷移状態における興味深い水素結合ネットワークが,複雑な基質に対しても高収率および高選択性で反応が進行する鍵であることが反応機構研究により示唆されている.
 
イリエシュチームは,医薬品分子の効率的な合成法開発に引き続き取り組んでいます.研究内容の詳細や共同研究に興味がある方は,イリエシュ博士までお問い合わせください. contact
 
参考文献
(1)  Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11, 3819.
(2)  Angew. Chem., Int. Ed. 2003, 42, 5487;  Angew. Chem., Int. Ed. 2004, 43, 4225;  Chem.-Eur. J. 2005, 11, 1086.
(3)  Tetrahedron: Asymmetry 2007, 18, 2959.